2019年の大晦日。前日は大雨。当日は日本海側に寒波が到来しつつも、太平洋側は強風のみで温かい天気予報の日。
高知県の奥物部ボルダーへ一人、年越し旅行を兼ねて外岩ボルダリングを楽しんできた。
(※長くて画像が多いです)
この旅行に行くかどうかは直前まで悩んでいた。
「一昨日の外岩で強打した太ももが痛くてうまく歩けない」「そもそも一人で遠方で登るのは危なくないか」「年越しくらい家でゆっくりしてればいいんじゃないの」「前日も観光案内を兼ねた遊び歩き食べ歩きで疲れが残ってるはずでは」「しかも会った友達が風邪気味っぽくて感染ってるかも」……などなど。
行かない要素はいくらでも上げることができた。
しかし、「トポを買ったからには行きたい」「一度くらい一人で旅のように知らない岩場で登ってみたい」という欲求を抑えるまでには至らなかった。
前日の夜に帰宅すると同時に自然と体がパッキングを始め、ホテルを予約していた。
行くぞ。
行くのだ。
4時過ぎに出発。
カーステレオがシャッフル機能で一発目に流し始めた曲は坂本真綾の「遠く」。
遠く 遠く 遠く 遠く
夜が明ける前に 私を運んで
理性が目覚める前に
良い選曲だ。これはもう行くことが定められた運命だな。
久しぶりの長時間運転なのでこまめに休みをとって進んだ。
淡路に入り、四国に入り、日が昇っていく。
それと同時に四国山間部の路面が全面的に濡れていること、高速の橋の下から漫画「うしおととら」の妖怪シュムナのような霧が這い出ているのに恐れを覚えた。
……大丈夫だろ、たぶん。きっと。
予定としては一日目は奥物部ボルダーの笹渓谷、うずまきエリアに行くことにしていた。
河原の岩なので乾きやすいだろうし、予報では風が強くなるということなので乾きやすさに拍車がかかるだろうと思っていたのだ。
もともとは有名な課題のある上韮生川の宴エリアに行きたかったのだけれど、トポを熟読していて駐車場に関する注意事項に気づいてやめた。
盆と正月はご家族が帰省されることがあり、駐車スペース等を考慮して利用を控える。
(STONE VALLEY Volume.1 P34)
読み落として危うくマナー違反を犯すところだった。
香美市のコンビニで朝ごはんを食べ、路面の濡れを気にしながら進む……って、道悪い!道悪いなここ!
カーブミラー必須の1本道が長々と続く。想像以上に山奥でビビった。しかも笹渓谷は携帯の電波が入らない。ミスったらヤバい。
緊張感が否が応でも高まっていく。
こんなところまで開拓に来るとは……四国のクライマーは気合が入っているなあ。
無事うずまきエリアに到着。すでに先着の人がいたようで、2台ほど車が止まっていた。
駐車場所の半分は路肩の整備か排水路の整備のためか、重機で占有されていた。
とりあえずトポとスマホだけ持って、痛む左足を不器用に動かしながら偵察に向かった。
良い規模の岩がゴロゴロ。トポにあるだけではもったいないくらいいくつもラインが引けそうな感じがした。岩の濡れは特になし。
一通り目当ての岩を調べた後、荷物を取りに戻って、うずまき1号、うずまき2号の岩へ。
下地の整った小さな広間みたいになっていて落ち着く。誰もいない。
ここから始めることにした。
気温は12℃、湿度70%。本当に真冬なのかな。
まずは右側にあるスラブ課題、すさまじい逆層 5級を登り。
続いて今日の本命課題、左側の渦巻く岩にあるボルテックス 1級に挑戦開始。
もともと初段課題だったらしいのだけれど、下地が上がったため最近1級にグレードダウンしたそうだ。
さて、もともとの課題のスタートっぽいやつは……。
……んあ?地面から15cmくらいしか離れてない。これをマッチスタートするのは自分には無理じゃねえの?
アンダーホールドからの染み出しをタオルで拭いながら考えたが、どうやってもできそうにないので諦めた。
ふと振り返ると、放置していたサブマットに雨粒がついていた。
……河原には絶え間なく小雨が降り注いでいた。
なんでやねーん。天気予報とちゃうやんけ。まあ山の天気は変わりやすいし、ましてや渓谷なので雲が入り込みやすいし……仕方がないね。
しかし、このうずまきの広場の上には背の高い広葉樹が茂っており、雨が降り注ぐことがほとんどなかった。
雨が止むまでここにいるか、うずまきエリアを諦めて別のところに移動するか。
……まあ、遊ぶか。せっかくの面白い岩だ。触らず帰るのは惜しい。自分で好きなラインを引いて遊ぼう。
というわけで、こういう課題に仕立てた。
一手目取りが少しコツもので、足が案外滑る。足の滑り、濡れに苦慮していたけれど、シューズをインスティンクトVSに変えたら楽になった。
雨脚は更に強くなっていくが、ギリギリ広場には降り注がない。
のんびりとトライを重ね、無事完登できた。3級くらいだろうか?
四国くんだりまで来て、魅力的なクライマーの作った名課題を触らずに何をやってるんだか……。
まあ、自分らしい行動でいいか。これが自分の岩登りの楽しみ方だ。
昼飯を食べていると雨が途切れがちになっているのに気づいて、広間から出た。
細雨は風雨に、そして風だけが残ったらしい。そのためか岩はあまり濡れていなかった。
これ幸いと下流側の岩を触りに行くことにした。
一通り眺めた後、君の家 4級に目をつけた。
絶妙なサイズ、魅力的な傾斜、それほど悪くない下地、リラックスするにはちょうど良さそうだった。
マット位置をあれこれ調整しながら、トライ開始。
時折小雨が舞う。……舞う?どうにも雨が風に乗って舞いすぎてる気が……ってこれ雪やんけ!
寒波到来と聞いていたけれど、まさか今シーズン初雪を四国の山奥で見る羽目になるとは。
なぜかテンションが上がった。冬は冬らしくないと楽しくないよなあ。
猛烈な風で何回かマットが飛ばされる。トライ中にマットが飛んだらどうしようと怯えながら、トライを重ねた。
カンテの一箇所は保持しやすいのだけれど、他はそれほど良くない。リップもあまり良くない。無理したら行けるだろうけれど、不意落ちしたらヤバいので気をつけた。
リップ奥にあるガバを何とか見つけ、完登できた。
降りるのに一苦労。降りるときは課題から見て左面にある苔地帯の更に左から降りると良いと思う。
風はますます強くなっていった。気温は5℃以下まで下がり、体感気温は氷点下に近づいていく。
岩にはすでに1パーティーが取り付いており、グリム 二段に挑戦中だった。
相乗りさせて頂く形でマットを広げ、トライ開始。
途中のガバカチ取りに苦労するが、スタンスなどをいろいろ試したところ、無事取ることができた。
上部のカチ、マントルはそれほど苦労するものでもなく、比較的あっさりと完登。
……うーん、微妙にグレードに納得できないけれど、まあ登れたので良し。
続いて、エルフ、じゃなかったグリム 二段も触らせてもらった。ドワーフと来たらエルフだと思うのに、グリムというのはなんか不思議。
そこそこ指の負荷が高い課題だったので、バラしにかかる。自分の力量でも各パートがバラせるので、これも比較的お買い得なのかな?
後半のリップ取りで飛んだりして、面白い。
しかしその後のマントルが悪い。上部の左手のホールドがなるく、保持力とバランス、スタンスを考える必要がありそうだった。この難しさが最後に来るのがなかなかにくい。
結局解決できず。
時間は15時半。一緒に触っていたパーティーが撤収を開始。明日もあることを考えて便乗して自分も帰ることにした。
あまり数が登れなかったけれど、この岩場まで一人できて一人で登った、という満足感があった。
高知市市街に車を走らせてホテルにチェックイン。
わざわざひろめ市場近くのホテルを取っていたのだけれど、市場は大晦日と思えぬほど大混雑していた。いつもよりも混雑していたっぽい。
一度来たことがあるので利用方法はわかっているけれど、一人だと席取りが難しい。立ち食いもできなくはないけれど落ち着いて食べたい……。
ということで、パックものをホテルまで持って帰って食べた。
孤独のグルメのワンシーンを思い出すなあ。
明日はどこに行こうか……黒潮ボルダーを少し触って、日ノ御子ボルダーでも行くかな……エリアは……狙う課題は……などとベッドの中でトポを広げていたら。
新年を迎える前に意識が落ちていた。
年越しで起きていないのは何年ぶりだろうか。
明日へ続く。