まえがき
梅雨が開けた。
梅雨が開ける直前の猛暑は少し落ち着いたものの、やはり暑い。最高気温35℃の猛暑日で普通に外を登るのは辛い。
ならば普通じゃない方法で登るしかない。
去年は朝練がそれだった。
朝練と称して一番近い岩場である千石岩に現地7時頃について昼ぐらいまで登るというスタイル。
実際は15時くらいまで登っていたのでもはや朝練という感じでもなかったが……。
昨年は長期レストからの復帰直後にこれを誘ってもらったことでずいぶん調子を取り戻せた気がする。
千石岩にはずいぶん通ったけれど、まだ登りたいルートがある。
先日瑞牆に行ったがクラックルートを触ることができなかった。
自分にもっとクラックの技術があってリードをする技量も自信もあれば、選択肢も広がったかもしれないのに。
ということで、千石岩のオールNPルートなスカイライン 5.10aに狙いを定めた。
あとは北面にあるスラブ、ミセスロビンソン 5.11bとかもまだ触ってない。この時期にできるかどうかはわからないけれど北面なら日が当たるまで時間がある。やらねば。
……などと考えながら朝練の相手募集しますというLINEを流したのだけれど、それほど反応が芳しくなかった。
去年朝練に誘ってくれた人はこの週末は沢登りをするという。
何回か「一緒にどうですか?」と声をかけてもらったことがあったのだけれど、「いやー沢はちょっと……道具もないですし、リスク高いですし」などと断りを入れていた。
そして今回も「もし良ければ一緒にどうですか?」という言葉をいただいた。
LINE上でも「これがあると行けますよ」などのアドバイスが飛び交った。
……うーん。悩む。
確かに沢登りはいつかやってみたいとは思っていたけれど、自分は体が弱いほうだし寒さにも弱く胃腸も弱いので道中体が冷えてお腹を壊したりしたらもう最悪になるのではなどと考えていたりした。
そもそも前日にリードジムで会った時に「沢はやめておきます」と言ったばかりだった。
……いや、この機会を逃していつ沢に行くんだ?
幸い行くという沢は初心者向けだという。家からもまあまあ近い。
基本的に時間は一方方向にしか流れないし、これから歳を取る一方なのだ。
それは腰が重くなり挑戦が難しくなっていくという意味でもある。
機会というのは早めに掴んでいくに限るだろう、やはり。
というわけで、沢登りに参加させてもらうことにした。
朝練のお誘いの声掛けは「やっぱりやめておきます」と伝え、朝練に前向きだった沢経験者な仲間も一緒に行くことになった。
バタバタして申し訳ない。
そして何より、沢に誘っていただきありがとうございますとこの場を借りて感謝の意を表しておく。
この時、すでに金曜日の15時過ぎ。
出発は翌日だった。
慌てて準備、買い物をする
最低限沢靴だけは必要だという。
沢登りというのは日本独自の遊びで、海外メーカーはそれに関連した装備があまりない。あえて言うならケイビング系の装備なのかな?
こういう時はmont-bellに限る。というか沢用具を出しているメーカーがmont-bellくらいしかない。あとは渓流釣りの用具メーカーとかになるっぽい。
会社上がりに通勤ルートにあるmont-bellの店舗に駆け込んだ。
とりあえず足元は専門のしっかりとしたもので固めておく。残りは手持ちでなんとかする。
そう決めていたので迷わず一番安い沢靴である、フェルトソールのサワーシューズを購入。
幸い足サイズの在庫があった。
それからネオプレンの靴下も買った。
この2つを合わせて12000円の出費。まあ許容範囲。
これが2万円を超えて来たら「うっ……」となったかもしれない。
まだ1万円強ならミスっても心理的な痛みは少ない。
そして次に行くのは……そうだね、100円ショップだね。
最近はなんでも100円ショップにある。
買ったのはこれ。
レジャー用防水バッグ(15L、ストラップ付)jp.daisonet.com
15Lの防水バッグ。
ダイソーのキャンプ用具コーナーに置いてある。少しお高い500円だけれど、性能は問題なし。
これの中にさらにゴミ袋に荷物を入れて二重に密封していたけれど、ゴミ袋が濡れることもなかった。
この防水バッグには3Lのモデルもあって3Lを2枚買うか悩んだけれど、こまごまと分けてそれぞれ開け締めするのが面倒かなと思って15Lのもの選んだ。
この選択は正解だった気がする。
あとはスマホの防水グッズ。
出し入れの出番の多いスマホに関しては薄いジップロック状の防水袋+チャック付き袋+防水袋の三重で防水したけれどチャック付き袋は微妙だった。
二重で良かったかも。あまりに袋が多すぎてカメラがぼやける。
ちゃんと写真を取りたいなら仲間が持っていたように防水のコンパクトカメラを持っていくのが最適なのだろう。
社会生活の生命線となっているスマホの紛失や故障などのリスク回避の意味も含めて。
それからゴム手袋。
沢といえば軍手らしいけれど、今更軍手という時代でもないだろ、水抜け悪いし微妙なんじゃないの?と思ってゴム手袋を買い、指先をカットした。
特に使い勝手の上で困ることもなかった。
残りの装備
靴、靴下は準備完了した。
残りは手持ちでなんとかする。
仲間曰く沢登りはとにかく汚れし、臭いがついて落ちなくなることもあるのでとにかくボロい捨ててもいいような装備で構わないという。
なので上着は10年以上前に買ったアルペンのプライベートブランドな安めの登山用の長袖シャツを着ることにした。
自治会の仕事とかに使ったりしたので、ペンキで汚れたりする。
パンツはスポーツ向けの化繊のもの。
ズボンはタイツにするか悩んだけれど、結局ワークマンの薄手のクライミングパンツを使うことにした。
最近ワークマン製品を使っていて思うのは、やはり安いなりの生地、裁縫だということだ。
ユニクロと比べると雲泥の差がある。
というかユニクロがヤバい。値段の割に質が高すぎる。
リュックはあまり出番がなく、汚れていたdeuterの自転車用リュック(19L)を使うことにした。
使わなさすぎて一部のチャックが錆びついていて動かず困った。
クレ556を差してガチャガチャやっても動かず、シリコンスプレーを差してペンチで無理やり動かしたらなんとか直った。
……この状態、沢で使い捨てても構わん感じだな!
あとはギア。
ヘルメットは普段フリークライミングで使っているもの。
ハーネスは昔買ったけれど微妙に体にフィットしない感じのBDのハーネス(モーメント)を使うことに。
履いたら意外とフィットして驚いた。
これ普通に使えるのでは?まあいい。
あとは安全環カラビナx3、普通のカラビナx3、ビレイデバイス(PETZLのルベルソ3)それからナイロンスリングを60cmx1、80cmx1、120cmx2。
これは初心者向けの沢には過剰装備だった。
実際使ったのは上からのビレイのための安全環カラビナx2、ビレイデバイス、120cmのスリングのみ。
持っていった荷物一覧
一応自分の装備、持っていったものをリストアップしておく。
自分が「初心者は何揃えればいいんだよ」と思って調べてもだいたい「これオススメ」とかいうお高い専門用品か「なんでもいい」とかしか書いてなかったので。
誰かの役に立つかもしれない。
……こんな素人の記事を信用するな。
ウェア
ギア
- リュック(19L) deuterの自転車用 問題なし
- 防水バッグ(15L) ダイソー 満足度高し
- ゴミ袋(45L) 防水バッグ内の保護のために使用 問題なし
- ゴミ袋(45L) 登山靴、濡れた沢靴などを入れるために使用 問題なし
- 予備のゴミ袋(45L) 出番なし
- フェイスタオル1枚 何かと拭くために もう一枚あっても良かったかも
- 昼飯 惣菜パンx2、チョコバー、ミレービスケットなど
- ナルゲンボトル 水 750ml 足りた、たぶん人によっては足りない
- 常備薬セット 常に保有、幸い出番なし
- 虫除けスプレー ヤマビル対策に
今思えばヘッドランプとエマージェンシーシートくらい持っていったほうが良かったのかもしれない。万が一のために。
焼合谷へ
今回行った沢は鈴鹿山脈の東側に流れる焼合川、その谷の焼合谷というところだ。
読み方は「やけごうがわ」「やけごうたに」らしい。改めて調べるまでずっと「やけあいだに」とか読んでた。恥ずかしい。
道中で聞いた話によると、沢に露出した花崗岩が焼けたような色をしているからそういう名前がついたのだとか。
これが初めての沢登りなので比較対象がなく、これがどういう沢なのか説明するのは難しい。
書けるのは初めてなりの率直な感想のみだ。
8時に駐車場である尾高高原キャンプ場についた。
天気予報は晴れだったのに、滋賀から八風街道を通って三重側に出るとほんの少し雨がパラついていた。幸いこの雨の影響はなかった。
どこまで行けるのか?と車でキャンプ場の受付まで進もうとしたのだけれど、奥の方の駐車場はキャンプ場使用者のみ停めることができる。
なので少し手前まで戻って駐車した。
駐車場は広く、ガラガラ。
準備に15分ほど。
自分は着るものはすでに着てきていて、パッキングも済んでいたので仲間の装備を観察。
みんなすね当てみたいなのをしていて、ちょっとビビった。
確かにスネをぶつけそうだし、必要かもな……実際ぶつけることはなかったし杞憂だったけれど。
登山靴を持っていく派と最初から最後までそれで歩く派に別れていた。
自分の買った沢靴はフェルトソールなので、登山道でのグリップや摩耗を考えてボロいGORE-TEXのローカットシューズを履いて、履き替えることにした。
入渓場所まで林道が続く。
鈴鹿山脈といえばヤマビルなので、しっかりと忌避剤を振りかけたけどアプローチでヤマビルを見ることはなかった。
他の人の記録や写真によると、格子状の堰堤から沢がスタートするらしいのだけれど、なかなか見えてこないので2つ目の大きめな堰堤のところで入渓の準備(沢靴への履き替え、荷物の防水など)をして水に入った。
これは正解だった。
たぶんここが一番入りやすい。
しばらく進むと目当ての格子状の堰堤が見えてきた。
後は特に大きな変化もなく、小さな滝と小さな釜がいくつも訪れる、そんな内容が続いた。
「沢靴はどうです?滑らないですか?」なんてことを聞かれたりもしたけれど正直比較しようがないのでわからない。
まあボルダーで渡渉する際に履いていたサンダルが滑りそうになった感覚は知っている。
それと比較すると確かに滑らないのかもしれない。
とはいえ足置きや角度次第で滑る時は滑る。これはクライミングシューズと変わらんな。基本的に丁寧さが大切。
無理にバランスを取ろうとせず、なるべく手を使って三点保持で進んだ。
沢は水量がそこまであるというわけでもなく、ほどほどに広いのでわざわざ水に浸かって進む必要がない、というのはなんとなく意外だった。
歩きやすさでいうと断然陸のほうが歩きやすく、リスクも少ない。
水の中は足場がどうなってるのかわからないのだ。
そのバランスを取るのに最初悩んだ。
どうやら「沢だから水に浸からなきゃ」みたいな気配があるのは感じていたけれど、途中から「水に入りたけりゃ入ればいいし、寒くなったり面倒になったら出ればいいんだ」という当たり前のことに行き着いた。
深く考えすぎなのだ。
初心者向けの沢ということもあってか、小滝はどれも乾いたところから迂回できる感じだった。
迂回してもいいし、真正面から挑んでもいい。自由だ。
難しくなればその自由さはなくなるのかもしれないけれど、少なくとも今は自由なのだ。
ある程度進むと谷が広がり、河原を歩くのと変わらない感じになってきた。
水ばかりに浸かってると体が冷えるので日差しに当たりに行ったり。
でも荷物として持ってきたレインコートを羽織るほどでもなかった。
この日の麓、菰野町の最高気温は32℃くらいだったと思う。谷自体の気温は25℃くらいか?
もっと冷えて凍えるものだと思ってたけれど、暖かくて良かった。水もそれほど冷たくない。
この谷は日差しがよく入るらしい。比良山地の沢とかは暗いのだとか。
朝早かったのでお腹が空いてきた。なので適当なところで腰を下ろして昼飯を食べた。
仲間の持ってきた遡行図をチェックしたり。スマホの電波はもちろん入らない。
遡行図はよくわからない。
どれが何の滝なのか……。慣れたら沢勘(とか言うらしい)がついてわかるようになるのかしらん。
焼合谷の最大の滝である女郎滝(7m)では練習も兼ねて仲間の持ってきたロープを出した。
滝上にある適当な岩が動かないのを確認して、スリングを巻いてビレイをしたり。
クライミングギアが役立ったのはこのシーンのみ。
どこまで詰める?
ある程度進んで水量が少なくなってきたところで、沢から上がる場所を探し始めた。
他の人の記録だと沢が三又になっているところで上がっているらしい。
そこまで行かなくてもいいんじゃない?
いや、ここで上がるのは傾斜がきつそうで危ないかも?
などなど話をしながらちょっと休憩し、結局前例に倣って奥まで詰めることになった。
沢を詰める。
沢登りは専門用語が多くてまだ慣れない。
まあ登山、フリークライミング全般がそうかもしれないけれど。
急登、登山道へ
支流が出てきたところで、登山靴を持ってきた組は靴を履き替えた。
この時気づいた。ズボンがそれほど乾いていないので、履き替えたら靴や靴下が濡れてしまうことに。
うーん、靴を履き替えるなら替えのズボンも持ってこなくちゃいけなかったか。そうなると下着や上着でズボンが濡れるので、さらにもう一枚替えのズボンが必要になる。ここらへんみんなどうしてるんだろうか。
今回は諦めて濡れたズボンのまま靴と靴下を替えた。
案の定靴は濡れたけど、まあ許容範囲。
沢の遡行自体よりも、谷から登山道へ抜ける登りが一番危なかった気がする。
尾根筋の最初の取り付きがかなりの急登で、足元に葉っぱが多く滑る。
掴みやすい木があるからなんとか登れたけれど、木がなかったら相当厳しかっただろう。
こういうリスクもあるんだなあ。
大体、物事の危ないことは本筋以外に潜んでいるものなのだ。
しばらくすると尾根筋が安定してきて、傾斜も緩くなり、落ち着いて歩けるようになった。
そして到着、地図上にあるピーク。
テープが張ってあるので安心する一方、降りる場所を間違いそうになって怖い。
登山道を下る
尾高山へ続く登山道は破線になっており、部分的にかなり悪く迷いやすいところがあった。
葉っぱが多く滑りやすく、登山道がわからなくなっているところが多数。
無闇矢鱈と付いているテープを目当てに下山していった。
ヤマビルを覚悟していたけれど幸い見かけることも、取りつかれることもなかった。
意外だ。もっとヤバいと思っていたのに。
それよりも最近山歩きをしていないし走ってもいないせいか、すぐ膝が痛くなって参った。
2kmくらい歩く程度で痛み始めるなんて軟弱過ぎる。
沢を遡上する技術よりも基本的な筋力体力が足りていない。
痛みに不安を覚えながら、無事尾高山山頂にたどり着いた。
景色がいい。
きれいなベンチもあり、長めに休んだ。
その後の登山道はマシになるだろと思ったら変わらず葉っぱが多く、少し迷いやすく戸惑った。
あんまり歩かれていない道らしい。破線なのは納得である。
無事キャンプ場まで下山。
これまた景色が良い。キャンプ場になるのも納得。
尾高高原と言われていて「どこが高原なんだろう?」とか思っていたけどこれは失礼だったな。
あとは炎天下の中着替えたり荷物を整理したりして、眠気に抗いながら帰宅した。
今回通ったルート。
下山後にログを止めるのを忘れてて車で走ったログまで入ってしまうのはいつものこと。
大した行程じゃなかったと感じた一方で、体への疲労はそこそこあったらしい。
家についてリードジムに行くか?とか考えながら後片付けをしていたら時間がなくなった。
シャワーを浴びて飯を食べて、F2のハンガリーGPレース1を見てF1のFP3を見ていたら寝落ちしていた。
うぬぬ。
振り返り
初めての沢登りの感想としては「なるほど、こういう遊びか」という感じ。
超絶面白い!というわけでも、辛い!全然面白くない!というわけでもなく、まだニュートラルな感じがある。
そもそも沢登り自体についての本当の面白さも辛さもまだまだわかっていない感が強い。
そこらへんの一端を知るためには、もう一回か二回くらい行かねばわからないような。
ともかく、基本的な装備だけは揃った。
この夏にもう一回くらい行って、いろいろ確かめたい。
誘ってくれた仲間に感謝を。
おしまい。