一泊二日の小川山遠征、その二日目。
一日目の記事はこちら。
この記事もとても長いので注意。
起床、出発
初めてのテント泊は、4時あたりから1時間毎に起きたものの、眠りの質はよかった。
ちょくちょく目が覚めた理由は、テントが微妙に傾斜しており、頭側が低い位置にあったためっぽい。
最後の最後で頭の向きを逆にしたらよく寝れた。最初からそうしておけばよかった……。
7時半に起きて顔を洗って、朝食(ランチパックなど)を食べながら今日の予定を聞き、パッキング、前日同様に9時前に出発した。
前日の影響で前腕や肩周りが筋肉痛。しかし、それほどパフォーマンスの影響はなさそうな感じ。
天気は昨日に増して快晴。青い空が目に痛いくらい。
今日は父岩まで行ってから徐々に下り、大きくエリアを変えて有名な小川山レイバックのある親指岩まで移動して終了、という予定になっていた。
川の水量が少し多く、ちょっとだけ渡渉に苦労した。
小川山物語 5.9
昨日行ったマラ岩よりも斜度のきつく、厳しいアプローチを進む。
結構辛い……昨日の疲れもあったのかもしれない。
たどり着いたのは、父岩の一番上にある超有名ルート、小川山物語 5.9。
これはぜひやってみたいと思っていた。
人気故に混雑しているかなと思ったけれど、誰もおらず、他のパーティーに出会うこともなかった。
「誰からやりますか?」と聞かれて、「やります!」と手を上げた。一番に登りたくてしょうがなかった。まだ日の差していない今がチャンス。
マスターオンサイトを狙った。
60mロープを用意してもらい、挑戦開始。
スラブのため、昨日使用したものと同様にフラットソールなアナサジLVで挑む。
長い……とにかく長かった。今まで登った中で一番長いルートだった。
妥協すれば行ける、使える、というホールドの選択肢が多いが、うかつにそれを使うと疲労がたまる。
迷う余裕があるくらいのスラブのために、慎重に選ぼうとして迷いが深まり、焦りが起きる。
それが肉体的、精神的な疲労につながっていった。
半分ぐらいを過ぎて、このグレードならそろそろ大レストポイントがあるだろ……と思ったものの、なかなかそういうところが出てこない。ホールドは一貫して同じ調子のまま。
まだか、まだなのか。
焦りがさらなる迷いを呼び、ムーブを探る時間が増えた。足がとてつもなくヨレていく。スラブを真正面から踏む余力がない。
サイドからエッジを立てて踏む……ものの、エッジのなくなりつつあるフラットシューズだと心もとない。スタンスの自信のなさが手を攻め立てる。
6~7ピン目あたりで手順の迷子、というか考える余裕がなくなってテンションをかけた。
あー……悔しい。
もう一度だ。
たっぷり休みをとってから、再チャレンジ。
シューズの選択には散々迷ったけれど、エッジング、ダウントゥのシューズとして持ってきてたスカルパのインスティンクトVSRを履いていくことにした。
尖っているので狭い足場には乗りやすい。反面、足先に荷重がかかるので足はヨレやすい。これは時間との勝負だった。
すでに日は昇り、岩は熱されつつあった。
意識的にペースを早め、判明しているムーブは早くすすめる。ゴリ押しで進んだところも前より良いムーブを選んで進める。
無事、完登。
喜び、というより安堵と無念さの入り交じる結果になった。
もっと道中のオブザベ力を高めたいなあ。
あと、前日気づいた「良いハンドホールドよりも、良いフットホールド」の鉄則をもっと意識すればよかった。良い足は妥協せずに、高かろうがガンガン上げたほうが楽になる。
タジヤンⅡ 5.10a
小川山物語の隣の壁面にある、とても長いルート。
60mロープでは足りないらしく、80mロープを使って挑む。
このルートがこの日の結果を決めるものになった。
1ピン目~2ピン目、そして2ピン目~3ピン目の核心部に大苦戦。
まさにスラブの核心といった感じの足置き、手に足なハイステップ。
個人的には前日登った届け手の平 5.10cの数倍難しかった。
一度マジで落ちて、指先から手の平まで擦れた。
ガンガンに日差しが当たる中で長時間、何度もテンションを掛けてムーブを探ったためだろうか。凄まじく体力気力を消耗。
後半のどうってことないランナウト気味なパートを必死になって登りきった。
美しい景色に見惚れる余裕もなく結び替えして支点を回収、ロワーダウン。
疲れた……。とてつもなく疲れた。
タジヤンⅣ 5.10a
先行して移動してもらっていた参加者に合流し、昼飯を食べながら体を休める。
食欲はあまりないものの、食べなければますます調子は悪くなる予感があった。気合で食べる。
しかしリードをする余力が出てこない。かといって登らないなんて選択肢はない。
妥協して、トップロープ登らせてもらうことにした。
前半が簡単な一方、後半の右へのトラバース部分あたりからグッと面白くなる。
浅いポケットのようなスローパーを持ちながら遠目のホールドを取りに行ったり。薄いいくつかあるホールドを迷いながら選んで伸び上がったり。
バランスを意識するところが多く、個人的にかなり面白いルートだった。
ただ、暑さとヨレでそれを楽しみながら進むこともあまりできず、必死になって登った。
ピクニクラ 5.10b
面白い、と評判のルートらしく、「大きなホールドを持って、体を大きく動かして取りに行くので、手が疲れていても大丈夫ですよ」と言われたものの。
余裕が全然なかったのでこれもトップロープで登らせてもらった。
確かに面白い。小川山にある他のスラブルートなどとは違い、他の岩場にあるような感じ。それがアクセントになっていて人気なのかもしれない。
心に余裕がなく、ちょっと迷いポイントに入ったところで粘れず、1テンション。
そしてなんとか抜けきった。
何という体たらく。体の調子がどこかおかしいかも……。
そしてヘロッヘロな状態で大移動が始まった。
小川山レイバック 5.9
西股沢対岸の山を降りて、再び川を渡り。
キャンプ場を抜けて親指岩までアプローチ。
下がって、また上がって。体力が奪われる。
やってきたぜ。日本一有名なクラックという、小川山レイバック 5.9。
このスクールに参加する前はクラックに興味がなかったので、ちょっと見るくらいで……な気持ちだったけれど。
実際見ると触ってみたくなるクラックだった。
取り付き地面の土が綺麗に均されていて、それを手すりのような岩が囲っている。このために整えられたベランダのようで驚いた。
トップロープを張ってもらって挑戦する。
ただ、触る気合いは少し出たものの、気力が足りない。
他の参加者に先行してもらおうかなと話をしていたけど、「大丈夫ですよ」と声をかけられて気が変わった。最初にやるぞ!
見せてもらった登り方とアドバイスを受けながら、下部をこなし。
レイバックという名前がつくのに、最適ムーブはレイバックじゃないのは意外だった……。
中間部からはジャミングが良く効いた。その他助けになるホールドも多い。
最後のマントル部でやや焦りつつも、フィストジャムがガッツリキマったことに喜びながら抜けきった。
やったぜ。というより、この有名なルートを触れて良かった。
帰宅、振り返り
自分を含めて今日中に帰宅する組だけ先に登り、17時半頃に下山開始。
下山途中にふと、体力気力が戻っていることに気づいた。
周りは木陰で、気温も下がっていた。たぶん、熱中症的なものだったのかもしれない。
タジヤンⅡで粘りすぎたな……。
暗くなる前にテントを撤収、事故もなく日が変わる前に家に帰宅することができた。
翌日の疲れ、筋肉痛はひどいものがあった……会社に行った自分を褒めたい。
濃密な二日間だった。
気づきや学びはいくつもあって、ありすぎてパンクした感がある。意識するポイントを自分の中で整理しきれていない。
レベルアップしたかはともかく、経験値は大量に手に入った。これをうまく日頃の登りで消化して、血肉に変える必要がある。
登り以外での経験(小川山の岩場の概要、アプローチ、テント泊やルートクライミングでの連登、体調で気にするポイントなどなど)を積めたのも良かった。
総じて、良い遠征だった。二日目午後の異様なヨレだけが残念。
宿題もあるし、もっと触ってみたいルートもある。マルチピッチも楽しそうだ。
また行きたいな。