まえがき
「リードジム仲間で小川山にクライミングトリップに行きませんか?」というお誘いを受けたのは2週間ほどまでのことだった気がする。
小川山!いいねえ。特に今のところこれが登りたい!という目当てはなかったけどどれを登っても楽しいに違いないのだ。
行くぞ!と思ったのだけど仕事のタイミングが微妙に悪く金曜や月曜に休みを取ることができない。
仕方がないので金曜夜出発、日曜深夜帰宅のパターンで行くか……考えたけど、少し迷った。
結局行くことを決めたのはその週の火曜だったと思う。
いつもギリギリに決める。それがマイスタイルなどと言い張れるわけではなく、単に優柔不断なだけ。
決めた日から小川山のトポを眺めて、気になる岩やルートをチェックしたり。
パートナーとして一緒に行く仲間の狙いがクレイジージャム 5.10dだったので、その周辺で移動が楽で面白そうな課題……あとは小川山全体で気になるルート……などなどチョイスしつつ。
リードジムではちょっとクラックの練習に取り組んだ。
行く直前の木曜日の夜などは店長からハンドジャム、フィストジャムの基本的なところを教えてもらったり。
これがかなりためになった。
そして仕事上がりの金曜の夜にバタバタと買い物などの準備をして、いざ小川山へ。
出発21時過ぎ、小川山に到着したのは2時頃だった。
廻り目平キャンプ場は比較的空いている感じ。車の駐車スペースも問題なし。
金曜から登っていた仲間がテントを張った近くのサイトの路肩に車を停めて、仲間と6時起き7時出発という約束をして車中泊スタート。
相変わらず、テントは持っていない。
たぶんいずれ買う予感がする気がしているのだけれど、それよりも車中泊が気に入っているところある。
起床、親指岩へ
6時少し前に起きて、朝ごはんを食べた。
少し前に瑞牆に行った時は温かいものが作れなくて物足りなかったので、今回は家で使っているカセットコンロを持参した。
それでドリップコーヒーを作ったり。
これは良かった。登山用のバーナー買おうかなとか思ったけど、車積んでキャンプ場に持っていくくらいならこれでいいな。
先に来ていた仲間に挨拶をして予定を聞いたりしてから、予定通り親指岩に向かった。
不安だったのは天気。この日は午後から大雨が降るという予報になっていた。
14時頃から17時くらいまで、降水量は30mm弱。豪雨だ。
登れるのは朝だけかもしれない……などと不安を抱えながらアプローチをした。
岩についたのは7時過ぎ。
この時期の土日だし混むかも……?と思っていたけれど誰も居なかった。
小川山レイバック 5.9
自分の狙いは小川山レイバック 5.9の1ピッチ目。
日本一有名なクラックとも言えるルート。
数年前に講習でトップロープで触らせてもらったことがあるけど、苦労した記憶しかない。
つまり自信がない。
なので最初にトップロープを張ってもらって確認してから、リードするか……と思ったけど、そうなると仲間に手間を掛けることになる。
仲間のメインの狙いはクレイジージャム 5.10dだったので、少し迷ったけど先にそっちを登ってもらうことにした。
クレイジージャムは自分はやる気はなかった。トップロープでは前触ったし、まだこれをリードする技量はない。
となると、順番的には自分がリードで小川山レイバックすることになる。カムを決めながら。
クラックのリードはやったことがなかった。
うーん、大丈夫か?
不安を抱えつつ悩みながら仲間のクレイジージャムのビレイを行ったけど、その奮闘の末のRPに勇気をもらった。
こりゃ自分もやるっきゃねえな。
というわけで岩の反対側、小川山レイバックのある面へ。
この時、朝の8時。未だに親指岩に来る人がいなかった。
珍しい。もっと混んでいる印象があったのだけれど。
昨今のクラック人気での入門者が一段落したってことなのかしらん?
まあ空いているのはありがたい。プレッシャーも少ないし。
出だしのレイバックの足置きで少し滑ったけど、足とフリクションを信じてグイグイ上がって、足ジャムを決めてそしてレイバックからハンドジャムを決める形に。
……バッチバチに決まるな。オイ。
そこでC075のカムを入れて、ガンガン高度を上げた。
クラックが一定でちょうど良いサイズなのでどこでもハンドジャムが決まる。
適当なところまですすんでC1を入れて、棚に上がってひと休憩。
トポにはC075~3と書いてあったので各2個ずつ持っていった。
C3はどこに使うんだ?上部のクラックかなと思って突っ込んだら抜けなくなった。
……え、マジで?抜けない!
トリガーを引きすぎたまま入れたのが問題らしい。引ききった状態でピッタリハマってしまって抜けない。
どうにもならなかったので、降りてくる時に回収することを検討して、その上にC2を決めて登攀を再開した。
抜けのところがちょっと難しく怖いことはわかっていたので最後にC2をもう一つ入れて、そして完登した。
やったぜ。
でもちょっと拍子抜けだった感ある。もっと苦労したと思うのだけれど。
まあ素直に自分の成長を喜びたい。
これは技量的な側面よりも、メンタル的な側面で大きな足しになる気がした。
スタックしたC3はロワーダウンしている最中にいろいろガチャガチャ動かしていたらなんとか抜けた。
マジでホッとした。こんな有名ルートで残置をしたら洒落にならん。
しかし良い学びにはなったと思う。ポジティブシンキング。
C3は結局どこに使うんだろう。ガバ棚に立ったときの膝あたりか?
たぬき岩へ
仲間も小川山レイバック 5.9を登り終えて、この時点で9時。
親指岩にクラックを目当てで来る人はいなかった。
次にどこに行こうかと話をして、自分がチェックしていた親指岩よりも上の方にあるたぬき岩、そこにあるLong Long 小川山 5.11aや自然薯 5.10dというのを狙いに行くことにした。
正直一度降りてエリアを変えるためにまた上がるのが面倒だったのもある。
親指岩からたぬき岩へのアプローチはトポに書いてあるとおり、一度有名なルートであるイムジン河のあるお殿様岩の基部に行ってから岩の左に続く黄色テープの踏み跡をたどればいいのだけれど、その上のお姫様岩あたりまで行ったところで踏み跡を見失って迷って30分ほどロスした。
もったいない。雨が降る時間が迫っているというのに。
冷静にあたりを見ればちゃんと踏み跡はあった。
なんで見落としたのか不思議なくらいだ。
たぬき岩についたところ先客パーティーあり。
ちょうどLong Long小川山 5.11aを登っている最中だったので、その隣にある自然薯 5.10dからやってみることにした。
自然薯 5.10d(5.11a?)
スラブとフェースの中間みたいなルート。
グレード以上に難しい辛めのルートというのは誰かの登攀記録で呼んだことがあった。
※ムーブとか書いてるので注意
1本目
トポに書いてあるとおり、1ピン目の前、でかいフレークのところでC05を入れた。フレークの左にある細い浅いクラックに決まる。
1ピン目上からさっそくシビア。ムーブに悩むけどこれしかないなとビビリながらレイバック。
その後の水平ガバクラック取りもそこまで良くないハンドホールド、フットホールドで行くので落ち着くまで難しい。
3ピン目掛けて持ったところでムーブがあまりにも見当がつかず、その上東面のためカンカン照りで岩が熱くてすぐチョークが剥がれるのでテンションを掛けた。
なんだこりゃ……なんだこりゃ?
いろいろ試行錯誤してようやくムーブを見つけた。
右手はガストンして体の左側に空間を作り、左足ハイステップで乗り込んで、それほど良くないアンダーを取ってそのまま立ち上がる、のか。
なるほどなるほど。
って、2ムーブ連結した核心のような感じでかなり厳しいし怖い。
まず左足ハイステップの精度が高くないとその後が繋がらない。
それらムーブをこなして立った後もそれほどポジティブなホールドがなく、薄いカチや小さなガチャガチャとしたホールドを掴んで足を整えて、ガバを掴んでからクリップが可能になる。
この時点でボルトはもちろん足の下。
いやー怖いっす。
最後は快適なクラックやガバになって終わり。
いろいろムーブ詰まっていて楽しい。
良いルートだ。
2本目
岩が直射日光で温められていて熱い。壁に張り付くと熱を感じる。
そんな中でトライ開始。
下部はまあ問題なし。
核心での左足のハイステップがちょっとズレていたせいで左手アンダーの保持が悪く、立ち上がろうとしたところで重心移動が止まってしまい、落ちた。
この時点で12時を過ぎていて、空は晴れたり曇ったり。遠くからゴロゴロという雷の音が聞こえていた。
先にいたパーティーは早々に下山を始めていたり。
雨雲レーダーの予報では14時から雨が降るという。
でもすぐ止んだり、ぱらつくだけの気配もある。
自然薯をいい加減を切り上げて最初の狙いだったLong Long 小川山 5.11aに切り替えるならこのタイミングかなとと考えながらパートナーのビレイをしていたら、核心でかなり苦労をしていた。
無理やり抜けようと思えば抜けられるはずなのだけど、つい「自分もう一回やるからいいですよ」と声を掛けてしまった。
あーあ。
というわけでもう1本である。
3本目
核心のハイステップな足置きさえ丁寧に出来れば問題なし。
完登できた。
話によるとこれは元々5.11a/bだったらしいけれど、新しいトポでは5.10dにグレードダウンされている。
でもそれもまた改定されて5.11aになったとか?
よくわからない。
まあそれはともかく良いルートだった。
オススメ。
個人的には瑞牆のカサメリ沢にある漁師の娘 5.11cと同じくらいの難しさな気がする。
まあグレードは目安だし、グレードなんて自分のレベルからすると大した意味はないよな。
登って楽しければ良し。
Long Long 小川山 5.11a
取り付きの下に丁寧にも看板がある。こういうのはちょっと珍しい。
看板には5.11bとあるけどトポでは5.11aとなっている。グレードダウンしたらしい。
登攀距離42mは小川山最長クラスとか。
これを選んだ理由は、めちゃくちゃ長いということだった。
珍しいルートをやっておけばその経験がどこかに生きるかもしれないし。
先に挑んだ仲間はだいたい50分くらい掛けて登っていたと思う。
曰く「下部はアプローチみたいなもの、上部はちょっと迷うから慎重に行っただけ」とのことだった。
なるほど……?
といっても長すぎて下からではよくわからない。
仲間が完登した後にセルフを取ってもらって雨雲レーダーを確認したら雨は16時に来るという予報に変わっていた。
人騒がせな天気予報だったなあ。しかしこれで岩場に人が少なめだったのかもしれない。
今現在14時過ぎ。よし、行けるな。
ということでドローを残しておいてもらった。
1ピン目あたりが少し難しい。というか気持ち悪い。
若干広めのクラックからスタートするのでクラック処理やステミングの技術が必要になるかも。
その後は基本ガバではあるけど、どれくらいガバなのか見えにくいホールドを取りに行ってはグイッと体を上げていく、そんなムーブが続いた。
中間部までは5.10aくらいみたいなことを誰かのブログで見たけど、まあ確かにそれくらいかもしれない。
仲間の言うアプローチとはちょっと言いにくい。あんまり余裕がなかった。
中間部では工夫をすれば座って休めるので、やや長めレストを挟んでから進んだ。
そこからはフェイスになり、ボルトごとにレスト可能なポジティブなハンド、フットホールドとある、という様子だった。
しかしホールドの形状が見えにくく、またレストポイントの状態が良いために躊躇う、というか躊躇えるくらいの余裕を作れてしまうのが厄介。
ボルト間隔もほどほどに遠く、次のクリップをする時は基本的に足元になる。
強度としてはあまりない。
ムーブの難度もそれほどない。
それよりも集中力を切らさないことと、それを補う体力、レスト能力が大切に感じた。
1つ「ここが核心かな?」と言えるようなわずかに手足を悪い連続ムーブがあって、そこが一番怖かった。
最後のピンからはルートが二手に分かれているように見える。
右にはガバ棚があり、そこからガバサイドやアンダーを掴んで上がれそうだけど足やバランスが微妙な気配。左はジャミング。
これはどっちを行くかなと悩んだ挙げ句ルートが直線的になりそうな左のジャミングなルートを選んだ。
フリクションの高い花崗岩だったのでジャミングとしての難易度はあまりない。
あとでトポを見たらクラックの左側を点線が通っていたので、これで正解らしい。
右側にもチョーク跡が残っていたので、そっちで抜けている人もいるのだろう。
無事完登。
たぶん30~40分くらい掛けたと思う。
60mロープであれば中間支点までギリギリロワーダウン可能というのは聞いていたいので、途中までロワーダウンで下ろしてもらいドローを回収して、中間支点でロープを抜いて結び直して下部を回収した。
少し早めだったけれど雨を警戒して15時半に下山。
触ったルートは3本だけだけど、内容の濃い、満足した一日だった。
夕方から宴会
ベースキャンプ(と言っていいものかな?)に戻ったのは16時頃。
タープの下でリュックに座ってちょっと休憩してから荷ほどきなどなどしていたら他の仲間も帰ってきて、さっそく食事の準備が始まっていた。
え、もうそういう感じ?
確かにお腹すいてるし疲れてるけどもうやっちゃってもいい感じ?
普段キャンプをしないのでイマイチここらへんのノリがよくわからないけれど、とにかく自分も食事の用意をした。
夕食はカレーメシ。あと、mont-bellなお酒。
ビールをいっぱいもらったり、鍋を振る舞ってもらったり、焼いた肉をもらったり……とにかくもらってばかりだった。
申し訳ない。
基本一人で食べるパンとかしか持ってきてなかったので何も出すことができなかった。
もうちょっと考えて食品とか持ってくるべきだったな……。
18時頃からたまにパラパラと雨が降ったり。
でも強く降ることもなかった。この日の天気は結局のところ良かったのだと思う。
焚き火をしながら雑多な話をして、21時ごろに車に戻った。
シャワーに行くのも面倒なので体を拭くだけで終わらせて、たぶん22時半に寝ていたような。
こんなに早く寝るのは久しぶり。
ぐー。
二日目に続く。